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映画レビュー

ジョーカー〜胸が苦しくなるヴィランの笑顔〜

ついに公開しちゃいましたね。「ザ・バットマン」。ヒルズさんのレビュー待ちです。
公開までのカウントダウン企画として様々なバットマンシリーズの紹介をしてきましたが、紹介しきれなかったので、今回は公開記念と称してバットマン以外のゴッサムメンバーの映画をご紹介しましょう。

初回は「ザ・バットマン」と引き合いに出されがちな「ジョーカー」(2019)。この映画のレビューをするならば他にも二作ほど別の映画をレビューしないといけない気もしますが、まず先に「ジョーカー」をレビューさせてください。

「ジョーカー」(2019)
日本公開日:2019/10/4
監督:トッド・フィリップス
キャスト:ホアキン・フェニックス
ロバート・デ・ニーロ
サジ・ビーツ

アカデミー賞主演男優賞、アカデミー賞作曲賞、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞

あらすじ

なぜ悪のカリスマ ジョーカーは生まれたのか__。
愛する母の「どんなときも。笑顔で人々を楽しませなさい」という言葉を守り、大道芸人として生きるアーサー。人々に蔑まれ、傷つけられ、笑いながら苦しみもがくちっぽけな一人の男が、大衆を巻き込み狂気と混沌の王となる。

 

 

見どころ ①ホアキン・フェニックスの怪演

これまで数々の名優が演じてきたジョーカー。特に近年「ダークナイト」で高い評価を得たヒース・レジャーのジョーカーはいまだに伝説的に扱われ、数多くのファンがいます。これ以上のジョーカーには出会えないと言っていた知り合いがいたほどです。しかし、このジョーカーはいままでのどんなジョーカーとも「方向性が違います」。PUDDINちゃんにかけてプリンに例えると、ずっしり重い固めプリンと茶碗蒸しぐらい違います。
ジョーカーがコミックスや「ヒーローのいる世界」の「キャラクター」ではなく、我々と同じ世界の一介のリアルな人間であることがずば抜けて斬新です。無論、映画、コミックを問わずジョーカーがただの人であったという解釈は度々描かれてきましたが、あくまでもフィクション。このジョーカーは限りなくノンフィクションに近づいた描かれ方をしている。あんな突飛なキャラをどうやって?!脚本はもちろん、そのリアリティに最も寄与したのは主演ホアキン・フェニックスでしょう。
「きゃーかっこいい」のジョーカーはここにはいない。ちっぽけで惨めなおじさんだけだ。まず、痩せ方が尋常ではない。骨の浮いた背中、その歪み方に、アーサーという男の生活が伺えて唾を飲む。さらに一瞬で引き込まれるのは、「ジョーカー」の大きなキーポイントである「笑い」。面白くもない、楽しくもない、苦しみえずく笑いの痛ましい表現力がとにかく凄まじい。彼が笑うたびに苦しくなる。笑っているのに笑わないアーサーに、代わりに笑ってあげたいような泣いてあげたいような、とにかく感情をぐちゃぐちゃにされてしまいます。描かれる全てが救いのない強大な「悲劇」であるにも関わらず、一方でアーサーは盲目的に喜劇を演じ続けます。それ自体がもうとてつもなく悲劇的!アーサーの周囲の人への触れ方のひとつひとつから、彼の感情の全てが伝わって、その全てがとびきり痛ましいんです。アーサーの痛ましさに苦しみながら、でもこの先に何かひとつ、流石にそろそろ何か良いことがあるはずだという希望で映像から目が離せないのですが、その感情がアーサーと同じ楽観的期待であるという巧妙さにまんまとハマりました。
公開当時、「誰もがジョーカーになりうる」と話題になりましたが、ここまでの痛みを背負っている人が「誰も」とは言えないでしょう。大衆である我々はまさに大衆、人の痛みや苦しみに無頓着で無神経にエンタメ的に消費してはジョーカーを生み出しうる存在なのです。

本作の見どころ ②絵が美しい

ポストカードの物販ないの?!と嘆いたほどにとにかくすごく絵が綺麗でした。色とりどりのシーンも、色彩の少ないシーンも、全ての画面に張り詰めた緊張感アーサーの感情が滲んでいて、あまりの美しさに驚きました。私が一番好きなのは病室のシーンです。光と陰、空間を隔てる写し方、色彩の静謐さ、全てがあまりにも美しくて、そしてその美しさがそのままあまりに残酷で、非常に強く胸を打たれました。
ちなみに二番目に好きなのは夜のトンネルを歩いているシーンです。向こうの建築はやはり島国の景色になれた身からすると全てがばかでかく見えるなと改めて驚いたのですが、「トンネル」ですよ?閉塞感、先の見えない狭い空間という印象で捉えていた島国トンネル認識。そんな「トンネル」なのに、ジョーカーの歩くトンネルははるかに広々としてるんです。ものすごく広い、とてつもなく大きな穴に、ひどくちっぽけなアーサーがただ一人。トンネルの向こうには光があるのに、ここは暗がり。その孤独、寂寥感、惨めさ、陰鬱さ、湿り気、全てが伝わる引き絵の美しい描写にやっぱり心臓を持って行かれました。もうあまりにも多くのことに傷つきすぎて、ただトンネルがばかでかいだけで傷ついてしまうよ!と途端に自分の感情があまりにも滑稽に感じて、喜劇的な悲劇を体感してハッとなりました。実際、日常の他愛もない風景までもが自分を惨めに見せるという残酷な心理がとてもダイレクトに伝わった場面です。
キーとなるシーンの色使いはもちろんのこと、ひとつひとつの場面に描かれる”全て“がこの映画の、「アーサー」一人に集約されているのがとにかく見事で、映画って本当にすごい・・・!と改めて感じました。
「息を飲む」とか「ため息をつく」とか言いたかったんですが、劇場ではそんなこと実際にできなかったんですよね。苦しすぎて、ずっと息も張り詰めてしまって。なみなみと張り詰めた苦しみの表面張力に絶え間なく雫を落とし続けるような、そんな映画なので、それが結界した時、彼がジョーカーになった時、大衆の「上」に立ち上がった時、溢れる感情は「安心感」でもありました。
本当に面白い映画です。

 

おわりに

公開日が作中冒頭のリアルな日付に近かったんですよね。試写を当てたさくらはそれに気づき、公開後わざわざその日の最も上映時間がオンタイムになりそうな時間に合わせて友人を誘い観に行きました。
さくらはDCが大好きなんですが、DCの好きなところは思いっきり暗くて重いヒーローをたくさん抱えているところです。しかもその雰囲気のまま映画にしちゃうんだからすごいなと思います。エンタメ全振りのDC映画も好きですが、一方でこういった薄暗いヒーロー映画も撮れちゃうのがDCの魅力です。
新作「ザ・バットマン」もこの思いっきり暗くて本来大衆受けしなそうな、大好きなDCならではの魅力に溢れた作品です!普段はアメコミ映画なんてという方も是非、この機会に!