楽ブログRakufilm Laboratory
   
   
映画基礎講座

【映画制作】〜1day仕事体験6/7日目〜 制作現場について

さくらです!今日はインターンシップのまとめ第六弾として、”制作現場について”お伝えします。

映画制作といえば、やはり撮影現場を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?撮影現場は、多くのキャストとスタッフが一堂に会し、それぞれのプロの視点から熱意を注ぎ一つの映画を作り上げる、とっても華やかかつ緊張感にあふれた空間です。全スタッフ、全キャストがみんなで神輿を担ぎ一つのゴールに向かっていく撮影現場というものは、”お祭り“のようです。

そんな撮影現場の様子や、それまでの準備スタッフの活動について、ご紹介していきたいと思います!


映画基礎講座 1day仕事体験
制作現場について

制作現場について〜クランクインまで〜

 

ロケハン

 

映画の撮影は三つに分けられます。
ロケーション(L)、セット(S)、ロケセット(LS)オープンセット(OP)の4つです。
ロケーションは実在する屋外の現場での撮影、セットはスタジオで撮影用に作られた空間での撮影、ロケセットはロケーション先の屋内での撮影、オープンセットは映画村のように撮影のために作られた街などでの撮影を言います。代表的なオープンセットは、太秦映画村や日光江戸村です。

企画、脚本、予告について」でも簡単にお話ししましたが、改めてここで「脚本から読み解くロケハン」についてお話ししましょう。
ロケハンとは、ロケーションハンティング、つまり撮影する”場所”、”舞台”となる「ロケ地」を探すことをさします。ロケハンにとって一番大切なのは物語に合った劇中の「背景」となる場所を想像することです。

 

まず制作部が脚本の設定に即した場所を探して動き、複数の候補を上げていきます。これをプレロケハンと言います。
様々な条件を考慮した上でロケハン資料を監督に見せてプレゼンし、監督の選んだ候補地を監督と一緒に回って確認します。これを監督ロケハンと言います。
監督がロケ地を選定し、確定したら美術・技術スタッフがメインロケハンを行います。
ただし、監督の趣向やスタッフ、作品内容によってロケハンの方法は様々です。

 

まず、作品全体のイメージや舞台設定などの大枠を監督が決め、それに合わせて制作部プレロケハンを始めます。
脚本の「」からそのシーンの「場所」を探り、「ト書き」内からそれが「いつ」の「どこ」であるかを重視します。「雪深い」など、キーとなる設定が書かれていた場合はこれも考慮します。「いつ」であるかを気にするのは、四季だけでなく、撮影が夜の撮影か昼の撮影かによって、ロケ地の候補が変わってくる場合があるからです。例えば、日中営業している商業施設であれば深夜〜早朝は貸し出してくれるところもありますが、日中まるまる貸してくれる場合はなかなかありません。定休日や休館日などを交渉していくことになります。
また、ト書きの中に特殊効果(煙や火、水など)の使われるシーンがある場合は、ロケ地の候補がさらに絞られます。実際に使われている商業施設などでは当然使用できません。その場所だけをセットで組むか、廃ビルなどを使用します。
現場の場所イメージ、季節・時間帯イメージ、撮影現場に必要な物のイメージなどを具体的に持てなければ、そもそもロケ地を探したり交渉することができません。

 

ただし、脚本の中に「どこ」という場所が明示されていたとしても、必ずしも実際にその場所で撮影するとは限りません。脚本の設定に合った場所であれば、全く別の場所であっても映画では十分に成立します
例えば、映画「ジョジョの奇妙な冒険 第1章〜ダイヤモンドは砕けない〜」は架空の”日本”の都市「杜王町」が舞台と設定されていますが、日本中の街をロケハンした上で、原作に描かれる街の作りや作品の持つ世界観を考慮し、日本ではなく”スペインのシッチェス”で「杜王町」を作り撮影されました。
また、映画の中では同じ一続きの空間として提示されている場所であっても、複数の場所を映像の中でつなぎ合わせて一つの空間に見せかけるということもできます。例えば「山あいの旅館」一つとっても、外観、周囲の道、内観、部屋・・・とそれぞれがバラバラのロケ地だったりするわけです。しかし、あまりにロケ地が多いと移動時間が増え撮影時間が減ってしまうことや、キャスト、スタッフの労力、ロケ地を抑える費用がかさむことなど、難点も増えます。そんな時は外から中に入るドアを開けるまでをロケにしてドアつながりで室内をセットを組むなど工夫をします。監督はキャストの演技を十分にイメージできる空間を、随時バランスを考えて組み合わせていく必要性があるのです。監督のどんな注文にも応えられるよう、候補地は常に様々な想定の上で複数用意します。

ただし、原作にロケ地の設定がある場合は常に原作のイメージが最優先されます。最初から原作と全く異なる場所を当たるということは基本的にありません。
映画「風に立つライオン」の原作では、物語の設定がケニアの熱帯医学研究所でした。制作部は当然初めは撮影の可否が分からず困惑しました。しかし、三池崇史監督が”まず実際のケニアを見ないとこの作品は作れない”と言ったため、ケニアにロケに行くことになったのです。結果、映画をご存知の方はご承知のことと思いますが、撮影は実際にケニアで行われることとなりました。(撮影環境の過酷さはいまだに楽映舎内で伝説的に語り継がれています。)

映画には映画のウソがあります。実際にはあり得ないもの、そうではないものを作り出したり、見せかけたりして、観る人を楽しませて分かりやすくするためのエンターテイメントとしてのウソです。ただし、人々がのめり込んで楽しめる良いウソは、真実を知っていなくてはつけないものだと思います。真実を知った上でつくウソと、何も知らずにつくウソでは、ウソの質が違います。より面白いウソをつくために、映画制作者は日夜”真実”を調べ続けるのです。

 

さて、ロケは屋外ロケだけではありません。人物の部屋などの屋内シーンであっても、ロケ地を探します。この際、作品やキャラクターのイメージの他に大事になるのが、撮影できるスペースが十分にあるかどうかです。イメージぴったりの場所でも、機材の入る余地がなかったり、効果的にカメラを動かせない場所は候補地から外れます。

こうして様々な想像を巡らせ、撮影条件を限りなくクリアできても、周囲にキャストの待機場所や衣裳メイク部屋、駐車場やトイレがないためにアウトという場合もあります。原作、脚本、監督のイメージだけでなく、それを“撮影する”際の広い視点を持てることが、ロケハンに必要な能力です。

 

イメージ画・絵コンテ

先述の通り、映画の全ての背景をロケーションで撮れるとは限りません。イメージ通りのロケ地が見つからなかった場合、CGの複雑な合成が望まれる場合、大掛かりな装飾の必要がある時、予算にはまらないなど、様々な理由によってローション撮影ができない場合があります。こうした時は、美術部がスタジオなどにセットを立てます。
また、ロケーション撮影の場合であっても、作品の都合でロケ現場に大掛かりな装飾を施す場合や、大規模な立て込みを行う場合、CGや合成などの加工を全体に施す場合など、場面に応じて美術部が最初に作品のイメージを共有できるよう絵にして視覚化します。
それが「イメージ画」「コンセプトアート」と呼ばれるものです。
これを元に美術部が図面に起こし、大道具がセットを組み立て、装飾部がセットを飾り、出来上がったセットに汚しを入れていきます。この汚しをエイジングと言います。
作品によってはイメージ画が先行してあり、それに合わせてロケハンが行われること場合もあります。
制作部は何をロケーションで撮り、どこをセットで取るか、脚本から読み取れなくてはいけません。

 

また、CGを多用する場面やアクションシーンのある場面では「絵コンテ」が描かれます。
絵コンテは、映画では主にCG/VFXを多用するシーンや、複雑なカーアクションのあるシーンなどで、スタッフがビジュアルイメージを共有するために描かれます。絵コンテを通じて監督のイメージをキャスト・スタッフが共有することで、現場がスムーズに進みます。絵コンテは四コマ漫画のように縦並びの四角いコマに、必要な情報を分かりやすく描かれます。
監督が描くこともありますが、「絵コンテライター」という専属のライターが描くことが多いです。ただし、絵コンテライターにカット割りなど全てが任されるというわけではなく、監督を中心として話し合いながら、監督のイメージを絵にしてコンテに描いていきます。
完成した絵コンテは台本とは別に、共有資料として現場の全スタッフに配られます。
絵コンテがあるとわかりやすいため、多くの人が共通イメージを持てるという利点はあるのですが、一方でそのために画角や撮り方についてまでスタッフが先入観を抱いて現場の自由な発想ができなくなってしまうため、必要以上の場面で描かれることは邦画では多くありません。

 

衣裳合わせ

 

衣裳合わせは、決定稿が出来上がり、全キャスト・スタッフに配られてから行われます。出演キャスト全員がキャラクターの衣裳、眼鏡や腕時計などの持ち道具、ヘアメイクやウィッグなどを合わせ、全員のバランスから一人一人のキャラクターを丁寧に調整していきます。見たお客さんがわかりやすいように、キャラクターのイメージが重ならないないようキャラクターのバランスを取ります。もちろん、キャストに合わせて衣裳や持ち道具などのサイズを確認する場でもあり、絶対に欠かすことのできないとても大事な作業です。
キャストによってはここで監督とのファーストコンタクトになる場合も多く、役柄や芝居、演出について監督に意見を伺い、キャラクターについての理解を監督と合致させていきます。

 

お祓い

 

お祓いはどんな映画でも必ずクランクイン前に行います。
メインキャストとスタッフが参列し、撮影・仕上げ中の安全と作品の大ヒットを祈願して受けます。
天候や不慮の事故、病気など、人事をどんなに尽くしても防ぎようのないものを天命に託します。
ここから、映画撮影という祭りに向けた神輿が出発します。

 

撮影現場について

撮影現場では、常に同時多発的にあらゆる部署が目まぐるしく動きます。どの部署も暇はありません。常に次の動きを考えながら、その瞬間にできるベストを尽くします。

仕事内容につきましては以前映画の様々な仕事についてでご紹介しましたので、今回は今までお伝えしていない撮影現場の細部について、簡単にご紹介します。

撮影現場では常に何かしらのトラブルが起きます。そした際における対応能力が必要とされます。

 

撮影スケジュール

 

撮影の総合スケジュールのことを香盤表とも言います。これには、クランクインからクランクアップまでの全日程、出演キャスト、特殊な機材や大道具、劇用車の有無などが全て書かれています。もちろん、ロケーション撮影の場合は天候を考慮して予備日も入れられており、全キャストのスケジュールがこれに合わせて抑えられています。
この総スケは必ず撮影前に現場の全キャスト、スタッフに配られ、天候やキャスト・スタッフの体調不良などによって撮影に変更があった場合はその都度改訂されていきます。

この総合スケジュールに基づき、日々の詳細なスケジュールを記した「日々スケ」が作られます。各キャストの入り時間や集合場所、撮影時間などが書かれ、基本的に撮影前日の昼までに作られ、全員に配られます。

お茶場
現場には、制作部が用意するお茶場というものがあります。ロケ地でもスタジオでも必ず用意されます。コーヒーやお茶、お水などのドリンク(温・冷両方)に加え、各プロダクションからの差し入れのお菓子類やドリンク、軽食などが並びます。除菌セットや体温計、薬類もここに常備されます。
忙しなく働くスタッフ達のオアシスです。

お弁当
現場の誰もが心待ちにしている「ロケ弁」。この手配も制作部の仕事です。
過酷な撮影のモチベーションとなる重大なポイントがロケ弁です。美味しさだけではありません。バランスの良さ、量、食べやすさ、さらに気候や撮影の過酷さ、前後のお弁当との兼ね合い__などなど様々なことを加味して手配する、現場における制作部の腕の見せ所のうちの一つです。
ある撮影の時は気合が入りすぎて唐揚げ弁当が重なり、キャストに苦言を呈されたことも__(ネタとしてでしたが)。

2年ほど前まではロケ現場ではケータリングが流行っていたのですが、コロナの流行によりここ最近はお弁当が多くなりました。

 

特機・操演について

 

特機スタッフは撮影中はフルで参加し、移動車やミニクレーンなどの特機を常に現場で動かせるように用意しています。
対して大型クレーンや雨降らし、火事、爆破、火薬、ワイヤーアクションなど危険を伴うものを扱う操演スタッフは、スケジュールが組まれてその都度ごとの参加となります。このようなものを使用する日は、安全対策のため余裕をもったスケジュールが組まれます。

最近は火事や煙や雨、雪降らしなどはCG部の協力を仰ぐことも増えてきました。

 

おわりに

観客は映画を通し、現場で”撮影された部分”しか見ることができません。その”部分を撮る”ために、スタッフは一丸となって撮影場所、セット、衣裳メイク、持ち道具、特殊効果含めあらゆる細部を最も良い形に作りあげ、キャストがキャラクターを全力で演じられるように心血を注ぎます。
それがみんなが観ている映画の”全て”です。全てのスタッフ、全てのキャストがより良い映画、より面白い映画を観客のみなさんに届けるために走り回っています。スタッフもキャストも、みんな映画撮影が大好きです。そんな撮影現場というものは、まさにお祭りのように思います。

0/7 プログラム
1/7 プロデューサーについて
2/7 映画制作の流れについて
3/7 楽映舎について
4/7 映画の様々な仕事について
5/7 企画、脚本、予告について
6/7 制作現場について
7/7 映画の見方、映画祭について