エール!〜家族というしがらみ、絆〜
ミーハーな映画ファンのさくらです。
先週アカデミー賞が発表され、本ブログでも大きく取り扱ったのですが、その第94回(94回!)アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞の三冠を獲った「コーダ あいのうた」の下敷きとなっているフランス映画「エール!」をレビューいたします。
「エール!」(2014) 日本公開日:2014/11/7 監督:エリック・ラルティゴキャスト:ルアンヌ・エメラ カリン・ヴィアール フランソワ・ダミアン ルカ・ゲルバーグ |
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あらすじ
フランスの片田舎で農業を営むペリエ家。長女のポーラ以外は父も母も弟も聴覚障害者。ある日、ポーラは音楽教師トマソンに歌の才能を見出され、パリの音楽学校のオーディションを勧められる。喜びながらも家族を思い戸惑うポーラ。ポーラのオーディションに反対する母。農協の現状の扱いを憂いて選挙戦に出る父。思春期の弟。
家族のしがらみと暖かさ、聴覚障害者と聴者の世界の捉え方の違い、関わり方を描いたハートフルヒューマンドラマ。
見どころ ①「家族」の難しさ
非常に丁寧に家族それぞれの感情と立場が描かれていて、苦しくなってしまった。家族間の開けっぴろげさ、信頼感はちょっとうちとは違うなと感じる一方で、どこの国でもどんな人でも母親はいつもこんな感じなのかと親近感を覚えたりするほど、映画用にデフォルメされた存在ではない、不恰好な「親」「娘」「兄弟」の姿がそこにはあり、それに思わず目を背けたくなるような感覚もする一方で、受け止めたいと逃れたいを同時に抱いて苦しむポーラの姿に深く共感しました。誰もが、特に若い子は少なからず強い共感を得るんじゃないでしょうか。
憎むわけでもなく、逃げるわけでもなく、ただ自由を得たい。子供から大人になるということを象徴する映画であるだけでなく、どこにでもある形という意味でいびつな「家族」というものに対して真正面から描いた作品です。
この「家族」をさらに複雑にしているのが農業であったり、耳の聞こえる聞こえないであったり、歌という夢を追いかける道であったり、あるいは恋愛観だったりするのですが、この絡まり方がそれぞれの立場やその立場上持つ負担などを浮き彫りにしていて、非常に見事だと感じました。
「家族」であることの難しさ、暖かさ、それらが全て詰まった作品だと思います。特にクライマックスと家族それぞれの歩む道には、前向きな清々しさを感じることができます。
本作の見どころ ②「聞こえる」ことと「聞こえない」こと
「聞こえる」「聞こえない」が非日常の特別なこととして描かれるわけではなく、彼らに寄り添いながらも当然の日常として描かれるところが新鮮でした。障害に「苦しむ人々」ではなく、当たり前の日常を生き、そこで聴者とのギャップを感じることがあれば、自らの力で変えていこうとする、「力強い」人でもましてや「健気な」人でもなく、ただの「父」や「母」の姿が、ポーラの目線を通して見ることで、非常に鮮明に見えたのが印象的でした。かといって、聴者とろう者の聞こえる/聞こえないということによって生じる様々な問題を度外視しているわけではなく、「歌」という「聞いて楽しむもの」や手話、日常の様々な光景によって真正面から描いているのが見事です。
さくらが特に印象に残ったのは父とポーラの喧嘩の場面です。一生懸命にポーラが言い返しても、父が席を立って後ろを向いてしまうと、彼女はもうなにも「言い返せない」。何を言っても”届かない”から。その無力感、悔しさというのはこうして見て初めて気が付きました。ろう者の苦労だけでなく、ポーラのような人たちが抱える悩みや負担を非常に丁寧に扱って周知させてくれる映画であると同時に、そのような状況下にあってもありたい家族の形であったり、心の距離というものを一つ提示してくれる映画です。
おわりに
映画でピアノが映るたびに思わずYA○AHAの文字を確認してはしゃいでしまう癖があります。映画「セッション」でもはしゃぎ倒しましたが、本作も先生のお家のピアノがYAMA○Aで大いにはしゃいじゃいました。流石にコンテスト会場では違いましたが・・・。
そして音楽シーンでもう一つ気にかかったのが歌!学生にして学校の授業でなんちゅう歌詞を歌うんだ!さすがフランスと驚いちゃいました。
見どころ満載で、目を背けたくなるほど生々しいシーンもありますが、それがわずか2時間弱に収まっているというのは改めて思い返すとすごい作品だったと思います。
「コーダ あいのうた」も観たいです!